会期:2026/08/01~

会場:ユーロスペース[東京都]

公式サイト:http://www.eurospace.co.jp/works/detail.php?w_id=000997


渋谷・ユーロスペースで開催された「パフォーマンス・アート:身体と空間をめぐる映画祭」において、キャロリー・シュニーマンのドキュメンタリー『ブレイキング・ザ・フレーム』(2012)が上映された。

シュニーマンは体が拘束された状態で描画を行なう《Up To and Including Her Limits》(1974-1976)や、9名ほどの男女が生肉や絵の具などと体を密着させる《Meat Joy》(1964)、シュニーマンへの批評を記した紙を膣から取り出して読み上げる《Interior Scroll》(1975)など、生身の体を表現の素材として扱ったパフォーマンス作品で知られる。しかし本作は、目立って取り上げられるそうした活動が、絵画や映像、彫刻と多岐にわたる彼女の作品群の一部に過ぎないこと、パフォーマンス・アーティストとしてではなくむしろ画家として歩もうとする道のりで直面する女性蔑視への応答のために生じていたことを伝える★1。

本作は2005年頃から6年ほどを撮影期間とし、幼少期から撮影時までの状況について、シュニーマンの語りを軸に展開する。パートナー、猫、膨大な日記のノート、書簡、終の棲家となった家。彼女の創造が生活や思考、時代背景と切り離されることなく生じている様子が示される。話題は周囲の環境にもおよび、元パートナーのジェームズ・テニー、その親友であったスタン・ブラッケージらとの共同生活、性差別者だったブラッケージとの確執。アナ・メンディエタとの交流、フェミニズムと美術の関わりを扱った大規模展覧会「WACK! Art and the Feminist Revolution」(2007、MoMA PS1、ニューヨーク)での様子なども取り上げられる。

監督のマリエル・ニトスラウスカは、前作の『Bad Girl』(2001)──ポルノ産業における女性監督の存在や、女性の性的欲望を扱ったドキュメンタリー──でも、パートナーとの性行為を作品化したシュニーマンの『FUSES』(1964-1967)を引用し、女性が受けてきた抑圧に対抗する先駆的作家として彼女を紹介してきた。

50代後半で本作を撮影したニトスラウスカとシュニーマンとの親しげな距離感は画面の端々に映り込み、作家からの信頼の厚さも窺えるが、とくに個展の設営に勤しむシュニーマンを捉えたラストシーンは彼女の人物像をよく表わしているように見える。全面が灰色に塗られた均質的な空間で、シュニーマンは自分の身長と同じくらいの絵画を引きずって移動させ、絵画の組み合わせによる見え方を探っている。そのバランスについて言語化することができないと述べたあと、彼女が漏らすため息で映画は終わる。そのあっけなさ、徒労や忍耐強さも感じられる一連のシーンは、シュニーマンが対峙し、本作がたどってきた美術におけるジェンダーの状況そのものに対するようにも見える。

シュニーマンは2017年5月にヴェネチア・ビエンナーレの金獅子賞生涯功労賞を受賞し、同年10月にはMoMA PS1で回顧展「キネティック・ペインティング」を開いた。2019年に亡くなったのち、2022年にはロンドンのバービカン・センターで「ボディ・ポリティクス」展が開催されている。MoMAによる作品調査★2やキャロリー・シュニーマン財団によるアーカイブの公開も手厚く★3、現在はオンラインからも彼女の足取りを追うことができる。

鑑賞日:2026/09/03(木)

★1──初期の躓きとして、1954年に不道徳を理由としたバード大学の停学処分が挙げられる。男子学生が女子学生のヌードを描くことが許された一方で、シュニーマンが自身や男性パートナーのヌードを描いたことが問題視されたという。

「ヌードの自画像を描いたことが理由でバード大学から停学処分を受ける。しかし同大学は、シュニーマンが男性の同級生のためにヌードモデルを務めることはまったく問題視していなかった」(「妥協なきフェミニズム──女性への身体的抑圧に抵抗したキャロリー・シュニーマンの代表作5選」『ARTnews JAPAN』、2024年3月4日、https://artnewsjapan.com/article/2070)

“I read that the male faculty were outraged and considered it obscene that you painted Tenney naked, showing his genitals.” (“Carolee Schneemann by Coleen Fitzgibbon,” BOMB, July 15, 2015, https://bombmagazine.org/articles/2015/07/15/carolee-schneemann/)

★2──The Museum of Modern Art, “Carolee Schneemann Papers on Up to and Including Her Limits”

https://www.moma.org/research/archives/finding-aids/CaroleeSchneemannb.html

★3──Carolee Schneemann Foundation

https://www.schneemannfoundation.org/

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