
2026年4月1日(水)に放送30周年を迎えた「午後のロードショー」(通称・午後ロー 毎週月~金 午後1時40分)。
「テレ東プラス」は、「午後ロー」をはじめ、数々の洋画や海外作品の吹き替えを手がけてきた、音響監督・高橋剛さんにインタビュー。
そもそも音響監督とはどのような仕事なのか――。高橋さんが考える「午後ロー」の存在意義についても語ってもらった。
【記事】サブスク時代に「午後ロー」を見てしまう理由【吹き替え声優】が明かす「現場秘話」
▲音響監督・高橋剛さん
知られざる吹き替え作品の舞台裏
——そもそも音響監督とは、どのような仕事なのでしょうか。
「アニメーションにおいては、声優のキャスティングや収録現場での演出、音楽(BGM)の選定、効果音の配置や音量バランスの調整など、作品における音の演出を総合的に担う仕事です。洋画の吹き替えでは、キャスティング、翻訳チェック、収録。テレビ放映作品では必要に応じてカットやCMをどこに入れるかも考えます」
——これまで数々の作品を手がけてきた高橋さん。この仕事を始めたきっかけは?
「バブルの時代に就職活動をして、内定もいくつかいただいたのですが、普通の会社員になることが自分にとって本当にいいのかなと思っていました。
その頃、ニッポン放送の『オールナイトニッポン』でADのアルバイトをしていました。レコードを取りに行ったり、お弁当を買いに行ったりと、本当に雑用係といった感じでしたが、元々ラジオが好きだったので、楽しく仕事をしていました。
一方で映画も大好きだったので、映画に声を入れる仕事があることを知り、何かに導かれるかのように『吹き替えの仕事をやってみたい』と思うようになりました。
それが1989年頃なので、この仕事を始めて約36年。忙しくて大変な時もありますが、辞めたいと思ったことは一度もありません」
——この仕事のどこに魅力を感じていますか?
「作品を作っているという感覚がすごくあるんですよ。吹き替え作品の場合、原版があって、翻訳を自然な日本語に直して、キャスティングをして、アフレコをして、音楽や効果音をミックスしてやっと一つの作品になる。その過程が楽しいんです。
キャスティングやセリフがうまくハマると嬉しい。元々、いらないものを削ぎ落として、何かをピタッと収めるような、パズル的なことが好きなんだと思います」
——翻訳されたセリフを、さらに自然な日本語にしていくという作業もあるんですね。
「オリジナルの役者さんの口の動きや呼吸に合わせて、言葉を足したり引いたりするのですが、翻訳によっては、ものすごく直さなければいけないこともあります(笑)。
無理に言葉を詰め込んで喋らせるのは嫌なので、その人の呼吸で自然に喋れるようにしたい。長いものを短くするほうがまだやりやすくて、短いものを長くするのは結構大変です。
半日くらいで調整できることもあれば、3日くらいかかることもあります。僕はなるべく現場で修正したくないので、事前にできる限り仕上げておきます」
——キャスティングは、どのように決めていくのでしょうか。
「映像を見たときの第一印象ですね。『この役だったら、この人かな』と最初に頭に浮かんだ人が、ぴったりハマることが多いです。
登場人物が多い作品の場合は、まず主役を決める。そこから、全体のバランスを見ながらキャスティングしていきます。
あとは予算との兼ね合いもあります。全部の役を主役級の人にお願いするわけにはいかないので(笑)。予算管理もディレクターの大切な仕事です」
——台本作りやキャスティングを含め、高橋さんが思う「いい吹き替え」とは?
「『セリフがひっかからないこと』でしょうか。見ている人が『今、何て言った?』と引っかかってしまうと、物語から意識がそれてしまう。そうならないように、日本語のセリフを作っています」
——確かに、セリフに違和感があると、そちらが気になって作品に集中できなくなりますよね。自然に聞こえる日本語にするために、どんなことを意識していますか?
「最初に入った会社では、社長に『隣の部屋から聞こえてきたら、日本のドラマだと思われるような吹き替えを作れ』と言われました。
例えば、芸人さんが真似するような、ちょっとオーバーな洋画の喋り方ってありますよね。でも人間ドラマなら、そんなにオーバーにする必要はない。オリジナルの役者さんが演じているのと同じテンションで演じれば、自然に聞こえます。
それと、セリフが日常的に使われている日本語であることも意識しています。『こんな言葉、言ったことない』とならないように、普段から使われている言い回しにすることを大切にしています」
——その時代ならではの若者言葉も取り入れますか?
「多少は意識しますが、流行り言葉はなるべく使わないようにしています。今は普通に使われていても、1年後には古い言葉になっていることがありますから。後から見たときに、言葉によってセリフを収録した時代が限定されてしまうのは、できるだけ避けたいので」

吹き替えで広がる映画の魅力
——特に印象に残っている作品は?
「『ランボー/最後の戦場』です。ミャンマーが舞台で、現地の言葉がたくさん出てくる作品なんです。ビデオ版は英語だけ日本語に吹き替えて、現地語はそのまま残しました。
テレビ版では、プロデューサーから『全部吹き替えましょう』と言われて、僕はミャンマー語が分からないですけど、物語の雰囲気が伝わるようなセリフ捻り出して考えました。大変でしたが、とても楽しい作業でした」
——印象に残っている声優さんはいますか?
「『ある日どこかで』(主演:クリストファー・リーブ)のささきいさおさんです。時を超えた恋愛を描くロマンティックファンタジーで、BSテレ東で新録吹き替え版を作ることになりました(2021年放送)。
クリストファー・リーブは、『スーパーマン』の頃からささきさんが吹き替えを担当していたので、『ある日どこかで』の新録版でも、ささきさんにお願いしたいという話になりました。
この作品が製作されたのは1980年で、当時のクリストファー・リーブは30歳前後。新録版を収録した時のささきさんは70歳を過ぎていて、役とかなり年齢が離れているので、お願いしても受けていただけるかどうか…と思っていたんです。
でも、ささきさんは『やります』と。収録当日『よく受けてくださいましたね』と聞いたら、『意地です』っておっしゃっていました。かっこいいですよね。
吹き替えも、本人との年齢差を感じさせない見事なもので、さすがだなと思いました」
——「午後ロー」では、まだ日本語吹き替え版が存在しない作品を、新たに吹き替えることもあるそうで。
「少し前に放送された『スペシャル・フォース 壮絶!人質奪還作戦』がそれでした(2026年7月15日放送)。
あと、『パピヨン』も。スティーヴ・マックィーンとダスティン・ホフマンが出演した名作をリメイクした脱獄サバイバルドラマで、僕が吹き替えを担当したのは2017年に製作された新しい方です」
——「午後ロー」というと、どんな作品が思い浮かびますか?
「やはりアクション系が印象的です。あと、サメ映画は『ザ・午後ロー』というイメージがあるので、ぜひこれからも放送し続けてほしいです」
——映画の楽しみ方も、昔と今ではずいぶん変わりました。高橋さんがこの仕事を始められた頃と比べて、どんな変化を感じていますか?
「メディアが変わってきましたね。レーザーディスクやVHSから、DVDやブルーレイへ。そして今は配信が中心になっています。僕らの主戦場だったテレビの洋画劇場はすっかり少なくなってしまいました。
配信は、いつでも好きな映画を見られて便利ですよね。でも、何かあると配信停止になって、見られなくなる可能性もあります。やはり手元にDVDなどのメディアを置いておきたいです」
——最後に、「午後ロー」を楽しみにしている視聴者へメッセージをお願いします。
「『午後ロー』は、映画を次の世代につないでいく、”最後の砦”のような放送枠だと思っています。レギュラーで洋画を放送し続けている番組は、今や絶滅寸前です。今日放送された映画が次いつ放送されるか分からないし、もしかしたら、もう二度と放送されないかもしれない。でもそれを掘り起こしてくれることを、『午後ロー』には期待しちゃうんです。
さらに『こんな映画があったんだ』という発見を届けてくれる場所でいてほしい。これからもずっと続いてほしいですし、皆さんにも楽しんで見ていただきたいですね」
【高橋剛 プロフィール】音響監督。アニメーション作品のほか、海外映画の吹き替え演出を数多く手がける。主な担当作品に、アニメ「とっとこハム太郎」(テレビ東京)、「べるぜバブ」(読売テレビ)、「波よ聞いてくれ」(TBS系)、「ぽんのみち」(毎日放送ほか)など。
吹き替えでは、「ジョーズ」(Blu-ray・DVDソフト版)、「ランボー/最後の戦場」などを担当。BSテレ東で放送された「ある日どこかで」、「ランボー ラスト・ブラッド 特別編」、「運び屋」では、新録吹き替え版の演出を務めた。
10月の「午後のロードショー」は…
【10月2日(金)「ジェイソン・ボーン」】※演出:高橋剛さん
ジェイソン・ボーンが消息を絶ってから何年もの歳月が経過したある日、訪ねてきた元同僚が告げた真実とは…。マット・デイモン×ポール・グリーングラス監督で贈る最高傑作。
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