英国の国民的な人気バンド、オアシス。新作ドキュメンタリー『オアシス:ドント・ルック・バック・イン・アンガー』は日本の映画館でも評判を呼んでいる。2009年にノエルとリアムのギャラガー兄弟のケンカのせいで、突然、バンド活動にはピリオドが打たれたが、やがて兄弟の関係が修復され、2025年の再結成ライブは世界的に大成功を収めた。そのツアーの様子をとらえた新作の魅力に迫ってみよう。
ギャラガー兄弟、奇跡の復活ライブ
オアシスの中心になっているのはノエルとリアムのギャラガー兄弟。兄のノエルが主に作詞作曲、弟のリアムがリード・ボーカルを担当。ふたりが揃うことで、無敵の強さを誇っていたが、兄弟の仲が悪いことでも知られていた。
何度も派手な兄弟ゲンカが報じられたが、2009年のフランスでの公演中に最悪の状態となり、ノエルがバンドを脱退することでバンド活動は終った。
ふたりは絶縁状態だったが、2024年に再結成ツアーを発表。兄弟の関係は続かないのでは?、との憶測も飛んだが、予想に反し、2025年のワールドツアーは各国で大きな反響を呼んだ。
日本では10月25日・26日に東京ドームでライブが行われ、10万人を動員。NHKの報道番組でも、その社会現象的な人気が取り上げられ、さまざまな本の出版や映画の公開も行われた。
ただ、来日ライブのチケットはかなり高額で、その争奪戦もあり、誰もが気楽にいける感じではなかった。

9月のヴェネチア映画祭でプレミア上映が行われたオアシスの新作ライブ映画。Photo by Alessandro Levati/Getty Images
そんなライブを見逃した人にとって朗報となったのが、世界ツアーをカメラに収めた映画『オアシス:ドント・ルック・バック・イン・アンガー』の公開だろう。
日本では2週間の限定公開の予定だったが、期待以上に興行が成功し、上映が延長されている。
筆者はシルバー・ウィーク中にシネコンに見に行ったが、ほぼ満席状態。オアシスのリアルタイムのファンは40代の中年層と思われるが、若い観客も目立った。近年、オアシスは若いリスナーを獲得しているようだが、それを裏づける興行にも思えた。
また、中年から若い観客までオアシスのTシャツを着ている人も目立った。ちなみに私の隣の席の男性はオアシスのTシャツを着て、器にたっぷり入ったポップコーンを終始食べていた。どこかイベント的なノリもある興行に思えた。
ふつうのライブ映画ではなく、ファンの声も生かす構成
映画は(いい意味で)思っていた内容とは少し違った。演奏シーンも多いが、それと並行して、世界中のファンとオアシスの音楽との関係も描かれる。送り手と聞き手の両方の姿を盛り込むことで、彼らの魅力に迫ろうとする。
この映画にはファンたちのさまざまな発言が盛り込まれる。
「オアシスの音楽を17歳の時から聞いていて、その音楽を聴くと当時の自分に戻れる」と語るファン。「ふだんは話ができない障害のある息子と音楽を通じてつながることができた」と語る母親。自分の犬にオアシスのメンバーでもあったボーンヘッドという名前をつけ、いかに彼らの音楽に救われたかを語るファン。「オアシスはこちらにがんばれ、というだけではなく、一緒にころんで、助けてくれる」という発言もある。
英国内のファンはもちろんのこと、ラテンアメリカやアジア圏など各国のファンの日常をとらえた映像も挿入されることで、いかにオアシスの音楽が人々の生活の中に入り込み、彼らを勇気づけてきたかがリアルに証明される。
リアムは曲の作者として語る――「曲がその人の寄り添うことで、その人自身の曲になってほしい」と。また、リアムは「音楽はガンになった人間を治癒することはできない。ただ、それでも、聴く人を現実から別の世界に連れていくことができる」と言う。
この映画を見ていると、オアシスの音楽で人生が変わった、という人も多く、それが国籍や世代を超えて広がっていることが分かる。

アメリカでもツアーが行われたオアシスの再結成ライブ。左がリアム、右がノエルのギャラガー兄弟。Photo by Mike Coppola/Getty Images
今回のツアーは彼らの新譜のプロモーションのために行われたわけではなく、彼等のかつての代表曲が演奏されていく。
「ワンダー・ウォール」、「リブ・フォーエヴァー」、「シャンペン・スーパーノヴァ」、「スーパーソニック」「シガレッツ・アンド・アルコール」「キャスト・ノー・シャドウ」「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」。
90年代に書かれた有名曲も多いが、いま、聞いても古い感じしない。そして、作り手のノエルは昔の曲が別の魅力を持っていることをツアーを通じて感じた、とも語る。
もともと、オアシスはライブ・バンドとして人気があり、英国では彼らの曲を観客たちが会場で合唱する場面もたびたび見られる。
ライブ会場ではファンの盛り上がりや連帯が大きな役割を果たしてきたバンドゆえ、こうした聞き手の物語も入れることでヒューマン・ドキュメンタリーのような色合いも出ている。
そして、そこからは音楽が持つ普遍的な力が伝わってくる。
マンチェスターから生まれたオアシスの音楽
ギャラガー兄弟はマンチェスターのワーキング・クラスの家庭で育った。父親は途中で家を出てしまい、母親が一家の柱となって、彼らを育てた。
マンチェスターは80年代から90年代にかけて、新しいロックの震源地となり、ニュー・オーダーやストーン・ローゼズといった人気バンドも登場した。
特にストーン・ローゼズはオアシスの音楽に大きな影響を与えていて、すでに亡くなったベーシスト、マニを彼らが追悼する場面も、今回の映画には登場する。
オアシスの結成は1991年で、アルバム・デビューは94年。そのアルバム(邦題「オアシス」)は英国ではすぐにヒット・チャートの1位となった。そして、95年のセカンド・アルバム「モーニング・グローリー」は世界中で400万枚以上を売り上げ、英国史上最も売れたオリジナル・アルバムの1枚としても知られている。

若き日のギャラガー兄弟。左が気難しいところがある兄のノエル、右が破天荒な性格のリアム。Photo by Koh Hasebe/Shinko Music/Getty Images
また、96年にネブワースで行われた2日間に渡るライブは両日で25万人を動員し、英国の歴史的なコンサートとなった。
オアシスは7枚のスタジオ・アルバムを作ったが、2009年に解散後は、兄弟は自身のバンドで活動してきた(リアムはビーディ・アイ、ノエルはノエル・ギャラガー・ハイ・フライング・バーズ)。

90年代にデビューを飾ったオアシス。デビュー・アルバムはチャートの1位を記録し、国民的なバンドへと成長する。 Photo by Michel Linssen/Redferns
劇映画は『トレインスポッティング』(96)への参加のオファーを受けたが、ただの鉄道マニアの映画だと思って断った、という冗談のような逸話もある。
いくつか彼らに関する映画も作られているが、ドキュメンタリーとしては兄弟の生い立ちやバンド活動のいきさつを描く『オアシス:スーパーソニック』(16)はすごく見ごたえがある。気むずかしい兄ノエルとやんちゃで破天荒なリアムのルーツ、当時のマンチェスターの様子がリアルに伝わる。
才能あふれるスタッフと共に作り上げた新作
今回の再結成ライブは、今後、彼らのキャリアを代表する1本として残る作品ではないだろうか。海外では批評家に絶賛されているが、辛口評を書くことで知られる英国の「ザ・ガーディアン」の名物評論家、ピーター・ブラッドショーも「とても楽しめる作品。まるで素晴らしいコメディアンたちのように愉快なギャラガー兄弟の姿がとらえられる。その再結成のすばらしさと楽しさを伝えてくれる」と賛辞を送っている。
今回、注目したいのが、まずは企画や製作でかかわったスティーヴン・ナイトの存在だ。デイヴィッド・クローネンバーグ監督の『イースタン・プロミス』(07)、クリステン・スチュワート主演の『スペンサー ダイアナの決意』(21)といった映画で知られ、近年はNetflixの人気シリーズ「ピーキー・ブラインダーズ」(13~19)の作者でもあるナイトが企画を練ることで、最後まで見る人を飽きさせない構成になっている。
また、監督はディラン・サザーンとウィル・ラブレースがつとめている。サザーンはブラーのドキュメンタリー映画『ノー・ディスタンス・レフト・トゥ・ラン~ア・フィルム・アバウト・ブラー』(10)で評価された音楽畑の監督で、最近ではベネティクト・カンバーバッチ主演の『フェザース その家に巣食うもの』(25)で劇映画の監督としてもデビューをはたす。
今回の映画では、リハーサル様子から描かれ、兄弟のぎこちない再会から描かれていく。
©Simon Emmett
この映画では妻を失いつつも、ふたりの幼い息子を育てる父親の喪失と再生をインパクトのある映像で描き、カンバーバッチにも監督としての才能を絶賛された。
ナイトやサザーンの参加によって、このライブ映画にはドラマ的な奥行きも生まれていて、ヒューマン・ドキュメンタリーとしても楽しめる内容になっている。
映画は兄弟の再生の姿を映し出すが、世界中で紛争や分断が起き、戦争も進行中の現代に見ると、15年に渡る絶縁を乗り越え、許しあい、和解にいたる兄弟の物語は、何か今の荒廃した時代へのメッセージにも思える。
オアシスの解散後、「世界中がクソになり、何もかもがおかしな時代になり、大勢の人が苦しんだ」とリアムは冒頭で語る。
一方、「人を許せない性格」といっていた頑固な兄は、問題児の弟リアムを許し、彼のボーカリストしての魅力を改めて認め、弟は兄の曲作りのすばらしさを賞賛する。
そんな許しと和解、そして、ファンも含めた絆や愛情の物語を描き出すことで、この映画はまさに混沌とした現代に一石を投じるライブ映画になっている。
オアシスも敬愛するバート・バカラックの曲「What The World Need Now Is Love(世界は愛を求めている)」が、劇中で流れるが、この曲がいまの時代に対する隠れたメッセージを代弁しているのかもしれない。
オアシス:ドント・ルック・バック・イン・アンガー 現在も公開中
監督 ディラン・サザーン、ウィル・ラブレース、企画 スティーブン・ナイト
出演 ノエル・ギャラガー、リアム・ギャラガー、ポール・”ボーンヘッド”・アーサーズ他
2026年/イギリス/英語/123分 配給 ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2026 Disney. All Rights Reserved.
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