【平家物語34 第2巻 教訓①】〜The Tale of the Heike🌹

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【平家物語34 第2巻 教訓①】〜The Tale of the Heike🌹

陰謀荷担者のほとんどすべてを捕え、
これを幽閉した清盛は、
まだそれでも気の済まないことが一つあった。
いうまでもない、陰謀の本当の元凶というべき法皇を、
目と鼻の先に野放しにしていることだった。
とにかく相手は法皇であって、西光や成親とはわけが違う、
うかつに手の出せないことが、
余計、彼を焦々《いらいら》させていたのである。
やがて清盛は、
赤地錦《あかじにしき》の直垂《ひたたれ》に、
黒糸縅《くろいとおどし》の腹巻、
白金物《しろかなもの》打った胸板《むないた》を着け、
愛用の小長刀《こなぎなた》をかいばさんだ
物々しい装立《いでた》ちで、側近の貞能を呼びつけた。
 清盛の前に伺候した貞能も、
木蘭地《もくらんじ》の直垂、緋縅の鎧《よろい》を着用している。
今にも戦の始りそうな、そんな二人の装立ちである。
「のう、貞能、つくづく思うに、過ぐる保元、平治の乱には、
 この清盛が、一命を投げうって朝廷のお味方をいたし、
 逆徒を平げてまいったことは、そちもよく存じておろう。
 そのために、何度か命を失わんとしたこともあった。
 たとえ、誰が何といおうと、
 この忠臣一門を七代まではお見捨てなさるまいと思っていたわしが、
 うかつであったろうか? 
 それも、成親、西光の如き賤しい奴らのいうなりになって、
 我が一門を滅ぼそうとなされる法皇のお気持は、
 何としても心外じゃ。
 この後にも、何日《いつ》、何時《なんどき》
 そういったふらちな奴らの言葉に耳をお傾けになって、
 院宣をお下しになるか、わかったものではない。
 もしそうなって、当方が朝敵と呼ばれたあとでは、
 いかに悔やんでもこっちの負けだ。
 今暫く、世が静まり、不穏の気配のなくなるまで、
 法皇に鳥羽殿に移って頂くか、
 またはこの六波羅へお移り願うのがよいと思うのじゃよ。
 それに就ては、おそらく北面の武士の間に異議も起り、
 矢も放つ者も出てこようと思う。
 侍共にも、一応、軍《いくさ》の用意をさせておけ。
 とにかく、わしは、
 あの気の変り易い法皇様へのご奉公だけはこりごりいたした。
 さア、馬にくらおけ、鎧を出せ」
いつに変らぬ気の短い清盛の命令で、
邸内はてんやわんやの大騒ぎである。
この混乱の真最中を、主馬判官盛国は、
いち早く重盛の邸へ報告にかけつけた。
「一大事でございます。
 清盛様のお気が変り大変な事になりました」
重盛はとっさに、成親のことと思い違えて、
「では、とうとう、成親卿は首をはねられたのか?」
「いえ、いえ、そのことではございません。
 清盛公は鎧を召され、
 侍どももすべて物具《もののぐ》の用意をいたし、
 唯今より、法住寺殿へ押しかけるご決意のようでございます。
 何でも、
 法皇様をしばらく鳥羽の北殿《きたどの》へお移し申すか、
 それとも六波羅へ来ていて頂こうというおつもりとのことでしたが、
 内心は、九州の方へでもお流し申そうというご計画に思われます」
「そんな恐しいことを、いかに父上でも」
 と、一たん否定した重盛も、
今朝方の清盛の興奮の様子では、
そういうこともあるのかも知れないと思って、
車をとばして西八条にかけつけてきた。

西八条の邸内には、既に一門の重だった者たち数十人が、
思い思いの鎧をつけて、
ずらりと立ち並び、諸国の受領《ずりょう》、
衛府《えふ》などは、縁先からあふれて庭を埋めている。
それぞれ、旗さしものを側近く引き寄せ、
兜《かぶと》の緒《お》をしめて、
馬の腹帯をかたくして、
出陣の命令を今かいまかと待ちわびているのであった。

🌹🎼#New challenger ~DA.I.PA.N~ written by #伊藤ケイスケ

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